市民生活のために登録抹消 ドレスデン・エルベ渓谷

世界遺産は登録されれば終わり、というわけではありません。景観や状態の保存維持に努めなければいけないのです。それを怠れば世界遺産登録の抹消もあり得ます。今回ご紹介するのは住民の生活を優先するために世界遺産登録から外れた町、ドレスデン・エルベ渓谷をご紹介します。

戦禍に巻き込まれた町、ドレスデン

ドレスデンはドイツのエルベ川上流にある都市でエルベ川を挟む形で町ができています。この街は中央ヨーロッパの優れた文化的景観を形成し、自然の渓谷を上手く利用した街並みが広がっています。13世紀には歴史書に登場し、16世紀にはザクセンの中心地として発展していきます。18世紀にはツヴィンガー宮殿や聖母教会などの後期バロック建築の建造物が建てられました。

ヨーロッパ磁器で有名なマイセンも近く、ここドレスデンにはマイセンを使ったモザイク壁画「君主たちの行列」があります。ツヴィンガー宮殿には多数のマイセンの磁器が収蔵されています。この他にも著名な音楽家が演奏を披露したオペラハウスやドレスデン城、フラウエン教会などがあります。

そんなドレスデンですが第二次世界大戦時には爆撃により多くの建物が破壊されました。しかし、1990年の東西ドイツの統一後に多くが再建され旧市街はかつての街並みを再現しました。聖母教会の再建には世界中から182億円もの寄付金が集まりました。この再建にはがれきから掘り出したオリジナルの部材を使い可能な限り元に戻す試みが行われましたこの作業は「ヨーロッパ最大のジグソーパズル」と呼ばれました。こういった歴史的建造物の残る文化的景観が評価され2004年に世界遺産に登録されました。

登録抹消の警告

このように第二次大戦を乗り越え、街並みを復興させたドレスデンですが、ある問題を抱えていました。元々古い街だったため橋が少なく交通量が増加していたために渋滞が頻発し住人から不満が出ていたのです。そこでエルベ川にドレスデン市街の渋滞緩和のための橋を建設する案が上がりました。

当初はドレスデン議会で建設反対派が多くなりましたが橋の建設を求める住民グループが住民投票を求めるようになり2005年に橋の建設の是非を問う住民投票を行うと建設賛成が多数を占めたため建設が開始されることになりました。しかし、世界遺産委員会からこの橋が「文化的景観を損なう」と判断され“危機にさらされている世界遺産リスト“に登録されてしまったのです。その後も世界遺産委員会は警告を出し続け、市議会でも建設反対の動きが見られましたが市長と州政府は住民投票の結果を尊重するという理由で建設を進めました。

ドレスデン市も橋が世界遺産の景観を損なうことはないことや対策の方法を模索しているといった釈明もあり登録抹消は見送られてきました。しかし2009年の世界遺産委員会までに橋の建設中止がなければ登録抹消という方針が決まり、2009年第33回世界遺産委員会で登録抹消が決まりました。このような経緯でドレスデン・エルベ渓谷は登録から5年あまりで世界遺産から抹消されました。この問題は地域住民の中では世界遺産の保護が地元住民による決定よりも優先されるべきなのか、という議論にもなったそうです。

ドレスデン・エルベ渓谷は世界遺産ではなくなりましたがこの街が中世から続くヨーロッパの街並みを今に残す街であることに変わりはありません。また世界遺産の登録や登録方法について知る上でも参考になる街でもありますし、ヨーロッパの古い町並みやお城を楽しみたい方にはいい観光地なのは間違いありません。

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